NVC : キーワードは「共感」
NVCは、アメリカの臨床心理学者マーシャル・ローゼンバーグ博士によって1970年代に見出されたコミュニケーションのアプローチで、Nonviolent Communication(非暴力コミュニケーション)の略です。日本では「共感的コミュニケーション」という名称で広く知られています。
変化が激しく予測不能で不確実(VUCA)な今、世界的に注目されているのが「共感」の力です。では、NVCの提唱する「共感」とはどういったものなのでしょうか?
「共感」はしばし、同情や同調、合意と混同されがちです。相手と同じ意見を持っていることをさして「共感する」という表現が用いられることも多いでしょう。
NVCでは、共感を、その人の本当に大事にしているもの(ニーズ)に耳を傾け、受けとめること、と捉えています。
例えば、Aさんはフレックス制度を導入すべきであるといい、Bさんはそのような制度は必要ないと言ったとしましょう。
表面的にみると、この二人は違う考えや価値観を持っているように捉えられることでしょう。もしかしたら正反対の考えをもっているのかもしれません。
でも、もしもこの二人が言葉で表現すること、支持している考えの奥にある大切なもの(ニーズ)に耳を傾けるとしたら、どうでしょうか。
Aさんの「フレックス制度を導入すべき」という意見の奥には、「(家族との)つながり」「気軽さ」「スペース(ゆとり)」「フロー」などといったニーズがあるのかもしれません。
Bさんの「フレックス制度は導入すべきでない」という意見の奥には「秩序」「つながり」「フロー」「(チームとの)つながり」などのニーズがあるのかもしれません。
それぞれの意見の奥にある「ニーズ」のレベルで受けとめると、(それが大事なのは想像できる)というところにまで降りてゆくことができる。つまり、共通の地平に立つことができるのです。
このように共感的に受けとめられることができれば、「お互いにとって大切にしたいものは何か」を理解したうえで、それを大事にするための方法を、クリエイティブに創造しいていくことができるのです。
否定という選択のかわりに「大切なことは何かを受けとめる」というところでつながることができると、お互いの間に心理的安全性が高まり、相手を否定することなく本音が表現やすくなり、信頼が醸成されてゆくことでしょう。
つまり、本来の自分らしさを活かしながら、相手のその人らしさも受けとめていくこころの基盤が育まれるのです。
自分の行動の源にある「ニーズ」へのつながりが、新たな扉を開く
私たちの生命の源にある「ニーズ」が満たされているかどうかを知るための手がかりとなるのが、感情です。
ニーズが満たされると快の感情が、ニーズが満たされないと不快の感情が生まれます。
すべての感情を受けとめ、大事なもの「ニーズ」につながる力(共感力)を高めることが、生命を受容し、全体性を生きることにつながるのです。
生命のエネルギーであり一瞬一瞬変化し続ける「ニーズ」とつながるために大切なのは(感じる)ということ。そして、つながりの質感に意識を向けることです。
つまり、深い共感的なつながりを育むためには、自分や相手にする決めつけやラベルづけから自由になり、ありのままを受けとめる視点を養うことが鍵となるのです。
現代は多くの人が思考優位な世界に生きていると言われています。頭で論理的に整理する代わりに、身体の感覚や、微細な質感に意識を向けることで、自分自身を、これまで知らなかった新しい可能性へと誘う勇気が育まれるのです。